2016年1月5日火曜日


                   第3回京都語用論コロキアム

「動的語用論(Dynamic Pragmatics)の構築へ向けて」

「第3回京都語用論コロキアム(Kyoto Pragmatics Colloquium: KPC) --動的語用論(Dynamic Pragmatics)の構築へ向けて」(京都工芸繊維大学・田中廣明研究室主催)を、第1回目、第2回目と同じく、京都工芸繊維大学で、来る3月13日(日)に開催いたします。今回も、「動的語用論の構築へ向けて」と題し、第一部で「コミュニケーションのダイナミズム:事例語用論・発話の創発・言語変化のメカニズム」を中心に3つの研究発表を、第二部で「コミュケーションのダイナミズムと文脈のメカニズム」を中心に、二つの側面に分けてそれぞれの講師に切り込んでいただきます。第一部では、吉川正人氏(慶應義塾大学(非))、高梨博子氏(日本女子大学)、柴崎礼士郎氏(明治大学)による研究発表を行います。第二部では、特別講演に加藤重広先生(北海道大学)をお迎えし、「動的な文脈設定と線条的語用論の試み」と題して、特別講演を行っていただきます。


「第1回開催趣旨より」:

動的語用論とは何であるのか。実はまだ、定まった定義はありません。語用論そのものが本来的に動的であるはずだという定義からは、トートロジーに陥るかもしれません。他の領域の言語研究でも、動的統語論、形式意味論、認知言語学、文法化、また会話分析なども、言語の動的な側面を扱っていることには代わりはないとされています。語用論の分野でもGriceや発話行為理論から関連性理論へと、また近年のmultimodal的な側面を重視する研究など、理論的、あるいはまた逆に実際的・語法的な研究は多く行われてきました。ただし、現実の発話のやりとりにおいて、話し手と聞き手がどのように、発話の規約や原理を駆使し、それに沿った(あるいは逸脱して)発話構築をお互いに影響しあって行っているのか、それがお互いの伝達的な意味(伝達意図など)に沿った働きをどのように行っているのかは、まだまだ未開拓な分野であるように思われます。

 

今回の第3回京都語用論コロキアムの開催が、我が国の言語研究に一石を投じられたらという願いで開催したいと思います。ふるってご参加ください。

 

日時:2016年3月13日(日)1:20 p.m.~6:30 p.m.

場所:京都工芸繊維大学(松ヶ崎キャンパス)60周年記念館1階記念ホール

http://www.kit.ac.jp/

交通案内 http://www.kit.ac.jp/uni_index/access/

最寄り駅から松ヶ崎キャンパスへの案内 http://www.kit.ac.jp/uni_index/matsugasaki/

キャンパスマップ http://www.kit.ac.jp/uni_index/campus-map/

 


受付:1:00 p.m.~

趣旨説明:1:20 p.m.~1:30 p.m.

「動的語用論の構築へ向けて」:田中廣明(京都工芸繊維大学)

 

第一部 1:30 p.m.~4:20 p.m.「コミュケーションのダイナミズム:事例語用論・発話の創発・言語変化のメカニズム」 

 

【研究発表】

1.吉川正人(慶應義塾大学(非))1:30~2:20 p.m.

「事例語用論 (Exemplar Pragmatics) に向けての試論」

 

2. 高梨博子(日本女子大学)2:30~3:20 p.m. 

「『遊びのフレーム』における個性形成の動的特性について-対話性と間主観性の視座から」

 

3.柴崎礼士郎(明治大学)3:30~4:20pm.

「構文変化と構文化について-日本語と他言語からの事例研究-」

 

第二部4:30 p.m.~6:30 p.m. 「コミュケーションのダイナミズムと文脈のメカニズム」 

 

特別講演:4:30 p.m.6:30 p.m.

 

加藤重広先生(北海道大学教授)

 

「動的な文脈設定と線条的語用論の試み」

 


連絡先:田中廣明(京都工芸繊維大学)

  〒606-8585 京都市左京区松ヶ崎橋上町 京都工芸繊維大学

  Tel. 075-724-7252(田中廣明研究室直通)Email: htanaka@kit.ac.jp

参加費は無料。事前登録必要なし。

終了後、懇親会4,000円(場所は未定。懇親会参加希望者は田中廣明まで上記メール宛先にご連絡をいただけたら)

世話人兼発起人:田中廣明(京都工芸繊維大学)・岡本雅史(立命館大学)・木本幸憲(京都大学 アジア・アフリカ地域研究研究科)・西田光一(下関市立大学)・小山哲春(京都ノートルダム女子大学)・五十嵐海理(龍谷大学))

発表要旨

 

「事例語用論 (Exemplar Pragmatics) に向けての試論」

                吉川正人(慶應義塾大学)

 

本発表では、認知心理学の分野で主にカテゴリー判断のモデルとして発展してきた事例理論 (Exemplar Theory) を語用論に応用する可能性を模索する。具体的には、行為としての発話の認識、つまり、個々の発話が「いかなる行為であるか」を聞き手が判断するプロセスを、発話の形式や意味、パラ言語要素、非言語情報(e.g., ジェスチャー, 表情)、言語文脈 (= 直前の発話)、話し手の属性や話し手に関する知識など、発話の場で得られるあらゆる手がかりを利用し、その手がかりから想起される過去の発話の記憶を総動員することで達成されるプロセスとしてモデル化する。この試みは、発話行為論を代表とする語用論の一部と、会話分析の知見を統合する可能性を秘めた、有意義なモデル化であると考えられる。

 

「『遊びのフレーム』における個性形成の動的特性について-対話性と間主観性の視座から」

高梨博子(日本女子大学)

 

 本発表は、ことばのやりとりという相互的な行為を通して動的に形成される会話参与者たちの「個性」について考察するものである。従来の研究では、「アイデンティティ」は、主として社会的属性をベースにとらえられてきたが、概念的には「アイデンティティ」に包摂される「その人らしさ」という個性が、静的に固定したものとして個人の内部に存在するのではなく、言語相互行為の中で相手の個性と接触することによって創発したり引き出されたりする動的な性質を有していることを述べるものである。本発表は、このように相手との関係性によって形成される個性について、Du Boisが提唱する対話的かつ間主観的行為である「スタンステーキング」と、その現象としてとらえられる「響鳴」(Du Bois 2007, 2014)という概念を用いて、実際の会話データを分析する。

 定延(2011)は、「キャラクタ」という用語を用いて、個性は明示的に言及されるものではないと述べているが、本研究でも、個性は真面目かつ意図的に「表される」のではなく、行動やメタメッセージに自ずと「表れる」と考える。この考え方を前提として、本発表では、会話で自然発生する「遊びのフレーム」内のメタメッセージを通して表れる会話参与者たちの個性に着目し、話し手が自分のことを茶化して開示したり、聞き手がそれをからかったりする遊びの行為を観察する。データ分析では、各場面で個性が間主観的に認識・評価されて蓄積されていくほか、それぞれの場面を超えて表れる個性の各要素が無理なく結びつくことを示す。さらに、開示する者とからかう者の役割が「相補的響鳴」パターンとして表れることも提示する。

 この分析を通じて、個性は個性間の関係性において創発し、強化され、再生産される動的な性質をもつことを提唱する。そして、個人の「その人らしさ」だけでなく「その人たちの関係におけるその人らしさ」という意味でも、個性は会話の場面において現象的に創造され、そこには社会文化的意味も生み出されることを示す。

 

「構文変化と構文化について-日本語と他言語からの事例研究-」

                柴﨑礼士郎(明治大学)

 

 本発表では、近年注目を集めている「構文変化」および「構文化」(Traugott & Trousdale 2013; Traugott 2014, 2015)の理論的枠組みの下で、文頭・節頭(以下文頭と略記)に生起する日本語表現および対応する他言語の表現を考察する。具体的には、文頭に使用される漢語系副詞群に焦点を当て、特に「事実(事實), ...」を取り上げて明治期以降の史的発達を考察する。尚、本発表は柴﨑(2015)に基づいている点を付記しておく。

 北原・他(2006)によれば、文末・節末(以下文末と略記)に使用される「事實也」(名詞+繋辞)のような述部用法は平安期から確認可能であるが、文頭に使用される副詞用法は20世紀初頭からと記述されている。そこで本発表では以下の分析手続きをとる。まず、国立国語研究所から公開されている近代語コーパス(『国民の友コーパス』、『明六雑誌コーパス』、『近代女性雑誌コーパス』、『太陽コーパス』)を使用し、明治大正期における「事実(事實)」の文頭副詞機能の発達経緯を詳細に分析する。その後、同じく国立国語研究所による『現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)』(特に書籍ジャンル)を用いて1970年代から2000年代初頭における直近の変化を捉える。更に、文中機能(e.g.「~事実であるが、...」)の発生経緯も考察し、「文末>文中>文頭」への機能拡張を明らかにする。

 Traugott & Trousdale (2013)によれば、「構文変化」とは意味(meaning)あるいは形式(form)のうちどちらか一方のみの変化を示し、「構文化」とは意味と形式が共に新規なものへ変化したことが確認できる場合にのみ用いられる。「事実(事實)」の場合には、「文末>文中>文頭」へと明らかな構文化(の連鎖)が確認できる。一方、「事実(事實)なり/事実(事實)なるが」という文末・文中用法の場合、対応する「事実(事實)である/事実(事實)であるが」や「事実(事實)です/事実(事實)ですが」が派生する。丁寧さの変化は意味変化と捉えることが可能であるが、3形式に共通する「名詞+繋辞」には本質的な変化は確認できないため「構文変化」と見做すこととなる。こうした構文変化は談話・語用論機能の発達に伴うものであり、その意味で、本コロキアムの趣旨である動的語用論と軌を一にする。

 関連研究としては、大島・他(2010)、益岡・他(2014)、新屋(2014)、高橋・東泉(2014)、鳴海(2015)などが挙げられるが、本発表で論ずる構文化や構文変化には触れられていない。この点において、伝統的な漢語研究は構文化研究との融合により新たな展開を見せるものと思われる。他言語における同様の事例と比較することにより、その重要度は更に増すものと思われる。

 

「動的な文脈設定と線条的語用論の試み」

                    加藤重広(北海道大学)

 

 語用論は「文脈の科学」だと説明することがあるが,「文脈」についてはさまざまな考え方が見られる。その中で,一方の極にあるのは,文脈の内実をあらかじめ定めたりせずに分析に必要な情報を,関与する文脈として事後に取り込んで,解釈や推意の計算を精密に行う方法である。この枠組みでは,文脈は帰納的に同定されるので便宜上「帰納的文脈論」と呼ぶとすると,この対極には,あらかじめ文脈の種別をカテゴリーとして設定し,どのように文脈のなかで解釈の計算がなされるかと時間軸に沿ってとらえる「演繹的文脈論」がありうる。演繹的に設定される文脈を線条的な「解釈処理」のプロセスに活用する枠組みを記憶の種別と対応させつつ,論じる。演繹的な文脈論は,動的に展開する談話の流れを記述する上でいかなる利点や欠点があるのか,についても,併せて論じたい。日本語は,演繹的な文脈論から見ると,談話記憶か知識記憶かの違いに敏感な言語とみられる点にも言及する。

2015年9月8日火曜日


2回京都語用論コロキアム(Kyoto Pragmatics Colloquium)


「動的語用論(Dynamic Pragmatics)の構築へ向けて」


 

「第2回京都語用論コロキアム(Kyoto Pragmatics Colloquium: KPC) --動的語用論(Dynamic Pragmatics)の構築へ向けて」(京都工芸繊維大学・田中廣明研究室主催)を、第1回目と同じく、京都工芸繊維大学で、来る926日(土)に開催いたします。今回は、「動的語用論の構築へ向けて」と題し、第一部で「コミュニケーションのダイナミズムと言語変化のメカニズム」を中心に、第二部で「コミュケーションのダイナミズムと言語発達のメカニズム」を中心に、二つの側面に分けてそれぞれの講師に切り込んでいただきます。第一部では、Enfield (2014)Natural Causes of Meaningの問題意識を中心に、木本幸憲氏(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科)による同書の報告と北野浩章先生(愛知教育大学)、岡本雅史先生(立命館大学)によるコメントと全体ディスカッションを行います。さらに、第二部では、特別講演に松井智子先生(東京学芸大学)をお迎えし、「語用能力の発達と障害:実験語用論の手法」と題して、特別講演を行っていただきます。

「第1回開催趣旨より」:

動的語用論とは何であるのか。実はまだ、定まった定義はありません。語用論そのものが本来的に動的であるはずだという定義からは、トートロジーに陥るかもしれません。他の領域の言語研究でも、動的統語論、形式意味論、認知言語学、文法化、また会話分析なども、言語の動的な側面を扱っていることには代わりはないとされています。語用論の分野でもGriceや発話行為理論から関連性理論へと、また近年のmultimodal的な側面を重視する研究など、理論的、あるいはまた逆に実際的・語法的な研究は多く行われてきました。ただし、現実の発話のやりとりにおいて、話し手と聞き手がどのように、発話の規約や原理を屈指し、それに沿った(あるいは逸脱して)発話構築をお互いに影響しあって行っているのか、それがお互いの伝達的な意味(伝達意図など)に沿った働きをどのように行っているのかは、まだまだ未開拓な分野であるように思われます。

今回の第2回京都語用論コロキアムの開催が、我が国の言語研究に一石を投じられたらという願いで開催したいと思います。ふるってご参加ください。

 

なお、上記Enfield (2014)80ページほどの短い小冊子で、以下のサイトから自由にダウンロードが可能です。ご参加いただける方は、ダウンロードされることをおすすめしますが、前もってお読みいただくことは求めておりませんし、また前提となる知識は全く必要ありません。ご自由ご闊達なご意見を求めております。またその下のサイトは、Enfield氏ご自身による紹介ビデオです。さらに、Nick Enfield氏は、今年度の日本語用論学会第18回大会(2015125日(土)6日(日)於・名古屋大学)へ特別講演講師として招聘が予定されております。

Enfield(2014) Natural Causes of Meaningのダウンロード可能なサイト:


Enfield氏による紹介ビデオ:


・日本語用論学会: http://www.pragmatics.gr.jp/

 

日時:2015926日(土)1:30 p.m.5:30 p.m.

場所:京都工芸繊維大学(松ヶ崎キャンパス)60周年記念館1階記念ホール


交通案内 http://www.kit.ac.jp/01/01_110000.html

最寄り駅から松ヶ崎キャンパスへの案内 http://www.kit.ac.jp/02/matugasaki.html

キャンパスマップ http://www.kit.ac.jp/01/gakunaimap/matugasaki.html

 

受付:1:00 p.m.

趣旨説明:1:30 p.m.1:40 p.m.

「動的語用論の構築へ向けて」:田中廣明(京都工芸繊維大学)

 

第一部 1:50 p.m.3:45 p.m.「コミュケーションのダイナミズムと言語変化のメカニズム」 

【集団討議・Enfield (2014)の報告とディスカッション】

報告者:木本幸憲(京都大学 アジア・アフリカ地域研究研究科)

「言語変化の理論化に向けて:Enfield (2014) 書評」

ディスカッサント:北野浩章(愛知教育大学)・岡本雅史(立命館大学)

 

第二部4:00 p.m.5:30 p.m. 「コミュケーションのダイナミズムと言語発達のメカニズム」 .

特別講演:4:00 p.m.5:30 p.m.

松井智子先生(東京学芸大学教授)

「語用能力の発達と障害:実験語用論の手法」


連絡先:田中廣明(京都工芸繊維大学)

  〒606-8585 京都市左京区松ヶ崎橋上町 京都工芸繊維大学

  Tel. 075-724-7252(田中廣明研究室直通)Email: htanaka@kit.ac.jp

参加費は無料。事前登録必要なし。

終了後、懇親会4,000円(場所は未定。懇親会参加希望者は田中廣明まで上記メール宛先にご連絡をいただけたら)

 

世話人兼発起人:田中廣明(京都工芸繊維大学)・岡本雅史(立命館大学)(第1回目世話人:西田光一(下関市立大学)・小山哲春(京都ノートルダム女子大学)・五十嵐海理(龍谷大学))

 

発表要旨


「言語変化の理論化に向けて:Enfield (2014) 書評」

木本幸憲(京都大学 アジア・アフリカ地域研究研究科)

本発表は、Enfield (2014)  Natural causes of languageの書評を行う。複数の時間フレームを想定し、従来から指摘されてきた系統樹モデルに変わる言語変化のモデル化を試みている。特に言語発達、話し手・聞き手間の相互行為など、ミクロかつ動的な要因に目を向けながら、言語学の黎明期から議論されてきた言語の通時的変化・バリエーションに関わるメカニズムを具体的に明らかにしようとしている。本発表では、この議論の背景となる比較言語学の手法、比較方法(Comparative method)や、関連する研究文脈(e.g. 認知言語学におけるUsage-Based Model)にも言及しつつ、Enfieldの議論を進めていきたい。

 

語用能力の発達と障害:実験語用論の手法

松井智子(東京学芸大学)

コミュニケーションにおいては、言葉や文の意味が「文脈」によって変化する。つまり、文が意味することと話し手が意味していることは必ずしも同じではない。それでも大抵の場合、聞き手は会話のなかで、言葉や文の意味を手がかりに、話し手の意味していることを、推測することができる。このメカニズムを明らかにすることが語用論の目標である。

本講演では、聞き手が文脈を含めたさまざまな手がかりを総合し、推論的に話し手の言わんとすることを理解するために必要な能力を「語用能力」としてとらえ、それがどのように発達するのか、そしてその心理基盤となるものは何かを考えてみたい。これらの問いに対する答えを探るためには、心理的実験と自然会話の分析を組み合わせた実験語用論の手法が有効である。この手法はまた、語用能力がうまく機能しない発達障害(語用障害)の特徴を明らかにするためにも役に立つ。そこで、実験語用論のアプローチを通してこれまでに明らかになった語用能力の発達と障害の特徴について報告し、その結果や方法について皆さんと議論をしながら今後の研究の展望について考えてみたい。

語用能力を支える心理基盤の候補として挙げられているのは、「心の理論」と呼ばれる自己や他者の心を理解する能力である。心の理論は、文化や言語に関わらず普遍的な発達を遂げると言われている。1歳の共同注意、2歳の欲求や感情の理解、3歳の知識の理解、5歳の思考の理解は、心の理論の普遍的な発達の節目として理解されることが多いが、コミュニケーションの視点から見ると、それらが語用能力の発達の重要な節目でもあることがわかる。会話が成立するためには、自分の注意をどこに向けるべきかを理解することや、自分や相手の欲求や感情を理解することが不可欠である。知識がない人、自信のない人からもらった情報は、信じないほうが良いと判断できる力も必要だ。8歳以降に可能になる皮肉や複雑なうその理解も、やはり心の理論という心理基盤に支えられていると考えられる。

このように、人間の語用能力はかなりの程度、普遍的な発達段階を経ることが明らかになりつつある。しかしその一方で、人間のコミュニケーションのスタイルが、個別言語や文化の影響を色濃く受ける性質を持つということもわかっている。そこで、語用能力の発達においても、普遍的な側面と個別言語文化に固有な側面があると仮定したとき、それらを研究的にどのように切り分けることができるかという点についても議論したいと考えている。

2015年1月31日土曜日

第1回京都語用論コロキアム(Kyoto Pragmatics Colloquium)
「動的語用論(Dynamic Pragmatics)の試み」

日時:2015年3月8日(日)1:30 p.m.~5:30 p.m.
場所:京都工芸繊維大学(松ヶ崎キャンパス)60周年記念館2階大セミナー室

交通案内
http://www.kit.ac.jp/01/01_110000.html
最寄り駅から松ヶ崎キャンパスへの案内
http://www.kit.ac.jp/02/matugasaki.html
キャンパスマップ
http://www.kit.ac.jp/01/gakunaimap/matugasaki.html

受付:1:00 p.m.~
趣旨説明:1:30 p.m.~1:40 p.m.
「動的語用論の試み」:田中廣明(京都工芸繊維大学)

発表:1:40 p.m.~3:50 p.m.
1. 1:40 p.m.~2:20 p.m.
田中廣明(京都工芸繊維大学)
「創発する表意(Emergent Explicature)
 --動的語用論(Dynamic Pragmatics)の試み」

2. 2:25 p.m.~3:05 p.m.
岡本雅史(立命館大学)
「会話における多相的共有基盤化」

3. 3:10 p.m.~3:50 p.m.
西田光一(下関市立大学)
「統語的擬態の応用と束縛代名詞の語用論的分析」

講演:4:00 p.m.~5:30 p.m.
西山佑司先生(慶應義塾大学名誉教授・明海大学名誉教授)
「代用表現の解釈」

連絡先:田中廣明(京都工芸繊維大学)
  〒606-8585 京都市左京区松ヶ崎橋上町 京都工芸繊維大学
  Tel. 075-724-7252(田中廣明研究室直通)
  Email: htanaka@kit.ac.jp

参加費は無料。参加の登録(連絡)も不要です。

終了後、懇親会4,000円
(場所は未定。懇親会に来ていただける方は田中廣明まで。
 上記メール宛先にご連絡をいただけたら)

世話人兼発起人:
田中廣明(京都工芸繊維大学)・西田光一(下関市立大学)・
小山哲春(京都ノートルダム女子大学)・五十嵐海理(龍谷大学)


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第1回京都語用論コロキアム(KYOTO PRAGMATICS COLLOQUIUM)
「動的語用論(DYNAMIC PRAGMATICS)の試み」

 このたび、京都工芸繊維大学・田中廣明研究室主催で、「動的語用論(Dynamic
Pragmatics)の試み」と題して、来る3月8日(日)に第1回京都語用論コロキアム
(Kyoto Pragmatics Colloquium: KPC)を開催する運びとなりました。特別講演に
西山佑司先生(慶應義塾大学名誉教授・明海大学名誉教授)をお迎えし、動的な
語用論に関わる様々な角度から、講演者と(以下)3 人の発表者に、言語使用の
動的な側面はどういうものであるのかを切り込んでいただく予定です。
 動的語用論とは何であるのか。実はまだ、定まった定義はありません。語用論
そのものが本来的に動的であるはずだという定義からは、トートロジーに陥るか
もしれません。他の領域の言語研究でも、動的統語論、形式意味論、認知言語学、
文法化、また会話分析なども、言語の動的な側面を扱っていることには代わりは
ないとされています。語用論の分野でもGrice や発話行為理論から関連性理論へ
と、また近年のmultimodal的な側面を重視する研究など、理論的、あるいはまた
逆に実際的・語法的な研究は多く行われてきました。ただし、現実の発話のやり
とりにおいて、話し手と聞き手がどのように、発話の規約や原理を屈指し、それ
に沿った(あるいは逸脱して)発話構築をお互いに影響しあって行っているのか、
それがお互いの伝達的な意味(伝達意図など)に沿った働きをどのように行って
いるのかは、まだまだ未開拓な分野であるように思われます。

 今回の第1回京都語用論コロキアムの開催が、我が国の言語研究に一石を投じ
られたらという願いで開催したいと思います。ふるってご参加ください。


発表要旨

創発する表意(Emergent Explicature)--動的語用論(Dynamic Pragmatics)の試み
          田中廣明(京都工芸繊維大学)

本発表では、発話の動的な面を語用論の観点から取り上げたい。その一つの試み
として、複数の対話者が、ある指示物を同定・特徴付けする際に共同で行う行為
を通して、発話内でどのようにひとつの表意(伝達される意味)を創発し、組み
立てているのかを論じる。会話分析の研究では、話し手が自分の発話内で、一つ
のTCUに、さらにTCUを補ったり、つないでいく様子は、Schegloff(1996)のpost-
possible completion, Couper-Kuhlen and Ono(2007)のincrementという範疇で
議論されている。また、話し手の発話に対して聞き手が言葉を追加していく様子
は、insertableという日本語に多いとされる範疇で議論されている(cf. Hayashi
and Hayano 2013)。一方、(理論的な)語用論の分野では、発話行為、含意生成、
また表意成立の条件(関連性理論における、一義化、飽和、自由拡充、アドホック
概念構築)といった側面に研究の中心があり、共同構築そのものへの言及は伝統
的ではない。聞き手は話し手の発話に対して、どのようにひとつの表意概念を作
り上げているのかを理解するためには、(i)話し手と聞き手では発話意図が異なる
のか、(ii)聞き手は、自由に(何の制限もなく)話し手の発話に言葉をつなげら
れるのか、(iii)発話基盤(common ground)が話し手、聞き手でどのように構築さ
れるのかといった問題を取り上げなければならない。(i)へはYes、(ii)へはNoの
答えを用意し、議論を進めていく予定である。


会話における多相的共有基盤化
          岡本雅史(立命館大学)
会話の中で参与者は他の参与者の知識状態を考慮しながら発話や解釈を行う。参
与者が二人からなる対話場面ではほとんど顕在化しないが、三人以上の会話では
発話は、しばしば当該発話によって与えられる情報や見解などを知っていたり同
意したりする者とそうでない者とを二分し、参与者間の共有基盤を両者の間で非
対称的に構築する。本発表では、これまで参与者間の相互知識や相互信念などの
単一的な共有基盤構築(Clark & Brennan 1991)が主張されてきた会話の共有基盤
化について、語られざる多相的な側面を、不定代名詞が潜在的に有する〈語る視
点〉やそれを修辞的に利用した「どこぞの誰かさん」アイロニーなどの発話例を
検討することで明らかにしたい。


統語的擬態の応用と束縛代名詞の語用論的分析
          西田光一(下関市立大学)
本発表では、英語の非人称的用法のyouが導く束縛用法の代名詞を題材に、
McCawley 1987が提案した統語的擬態(syntactic mimicry)とGrice 1975の量の公
理の関係を論じる。まず、2人称のyouの直示的用法と非人称的用法は、量の公理
の相反する2つの下位原則に応じた区別であることを示す。統語的擬態は、範疇が
別でも意味が同じ表現が同じ構文を作ることを言うが、ここでは非人称的なyouは
everyが付く量化名詞句と指示対象が同じ範囲になるため、それが支配する文脈
では量化名詞句と同様に代名詞に束縛的な解釈を与えることを示す。また、
Francis 2005を参考に、統語的擬態は構成素に与えられる語用論的推論として把
握されることを指摘する。
参考文献
Francis, E. J. 2005. Syntactic mimicry as evidence for prototypes in grammar.
    In S. S. Mufwene, E. J. Francis, and R. S. Wheeler, eds., Polymorphous
    Linguistics: Jim McCawley’s Legacy, Cambridge, Mass.: MIT Press, 161-181.
Grice, H. P. 1975. Logic and conversation. In P. Cole and J. L. Morgan, eds.,
    Syntax and Semantics vol. III: Speech Acts. New York: Academic Press, 41-58.
McCawley, J. D. 1987. A case of syntactic mimicry. R. Dirven and V. Frid,
    eds., Functionalism. Amsterdam: John Benjamins, 459-70.


代用表現の解釈
          西山佑司(慶應義塾大学名誉教授・明海大学名誉教授)
先行詞と代用表現(pro-form)が二つの文にまたがるとき、両者に同じindexを
振り、co-referentialの関係として捉えることは、(i)先行詞と代用表現が各文
中で果たす意味的機能を無視しているという点、(ii)代用表現が要求する飽和化
(saturation)という語用論的操作を考慮していないという点で問題である。代用
表現は自由変項であるとみなすならば、その値は、語用論的に計算され、先行文
の言語形式以上のものでありうる。この講演では、先行詞が先行文で果たす意味
機能と代用表現が後続文で果たす意味機能の多様な組み合わせの例を検討するこ
とを通して、代用表現と先行詞との関係にいかなる意味論的・語用論的制約が課
せられているかを明らかにしてみたい。